• Yoko Yoshimoto

「ファルツの森のバリック樽」

最終更新: 4月17日


・ファルツ地方のナラの植林面積は、ドイツで一番広い。その面積の158,000haは、ドイツ国土面積の18%以上に当たる。自然森では、圧倒的にブナの林が多いことを考慮すれば、ファルツ地方のナラの林には、特別な耕作管理と、森の歴史が、その背景にある。

陽樹としてのナラは、定期的な伐採を通して、大きさを管理することにより、数百年以上守られてきた。1984年と1990年の暴風雨によって、ファルツの森は被害を受けたが、その後の広大な森の再生プログラムによって、ファルツ地方のフユナラとヨーロッパナラの栽培面積は、ドイツで最大の面積を保持するに至った。つまり、自然災害が、ファルツ地方のナラを特産としたのだ。

ファルツ産ナラ材は、あらゆる国々、地方、業界から引き合いがある。特に国有林を含む、ファルツ地方南部の森の歴史は、ナポレオンの時代より前に遡る。その当時のナラ材は、専ら造船の材料とされていた。そして、バイエルン時代の間、新しい需要に応じて、ナラ材の製造は様々な価値を高めてきた。しかし、ファルツ地方のナラ材が、現在のバリック樽の大きな需要に発展するとは、200年前の役人たちは誰一人考えなかっただろう。

ファルツの森のフユナラは、ドイツの国有林の全伐採量の7,5%、売上全体の12%を占めている。総売上の35%は、張り材として売上げ、ワインの樽材としての売上比率は45%にもなる。ファルツ地方の森林組合「ヨハニスクロイツ」は、ナラ材の商品としての価値の可能性、効率の良い収益の確保に尽力している。

しかしながら、ファルツの森のナラは、単なる収益物としてだけでなく、自然文化財として、卓越した役割を担っている。コガネムシや、キノコなど、すべての生物群衆は、ファルツの森の樹々を生育場所としている。つまり、ナラは、商品価値としての経済目的と、生物の長期間の生活サイクルを保持する目的とを、上手に両立させている。

生物学的に、ブナ化コナラ属に属するナラは、およそ450種類にも分類される。しかし樽職人たちは、樽の主要原料として、その中のたった3種類しか使わない。それは、ヨーロッパを起源に持つ、フユナラとヨーロッパナラと、そして、アメリカ原産のアメリカンホワイトオークである。それら3つは、いくつかの違いはあるにせよ、全体としては、似たような特徴と、構造を持っている。

ファルツの森では、フユナラとヨーロッパナラの2種類のナラが、樽製造のために育てられている。ヨーロッパナラは、湿気を好み、地下深い所にまで根を張る。ファルツの森でのヨーロッパナラの生息地は主に、ビーンヴァルト(Bienwald;ラインラントファルツ州の南東部に位置する、およそ120㎢の森林自然景観保護区域。地質は、氷河期の際に形成された砂土)である。平均高度100mに位置し、気候は温暖で、中間的な果実量を付ける。一方、フユナラは、それより標高の高い、丘の上や山地でよりよく育つ。つまり、ヨーロッパナラよりも、冷涼な地で育ち、湿気を好まない。乾燥した南東向きの、水はけの良い砂岩土壌を持った、標高500mほどにある森林組合「ヨハニスクロイツ」周囲が適地となる。

近年、ワインの樽材として、ファルツの森のナラ材は、国内外から注目が高まっている。アメリカや、東ヨーロッパと比べ、高い人件費にも関わらず、高級ワイン樽用として、バイヤーたちに着目されている。その理由は、ファルツの森の、他より優れた排水の良い土壌と、穏やかでバランスの良い気候条件にある。それは、樹木が、規則正しく、ゆっくりと成長することにつながる。それは、高品質の樽材の前提条件であり、純粋で、凝縮した芳香を、ワインに与える。

そのような高品質な樽材は、優秀なケラーマイスターの手によって、ワインの表現に生かされる。その樽材の効果は、ファルツ地域やドイツ国内に留まらず、フランス、オーストリア、イタリア、その他のヨーロッパの国々のケラーマイスターたちに知られている。

そして、国際的に評判の良い樽メーカーが、ヨハニスベルクで毎年行われる、樽オークションに集い、その価格は年々上昇している。ファルツ産のナラを扱う優れた樽職人たちは、今や、時計職人や、流行デザイナーと同様に評価されるようになった。近年の品薄状態と価格高騰によって、ファルツ産のナラ材は、他の産地の樽材とを組み合わせて、使用されることが多くなった。

森から加工所へ

・良い樽は、ワインの価値を高める。樽熟成させるワインは、優れたものでなくてはならないが、樽に使われる木材もまた、第一級品でなければならない。そもそも、樽材は、既に森に生存している間から、その品質基準を満たされていなければならない。

樽職人の作業場から遠く離れた森の中から、既に品質の目利きは始まっている。それは、産地、樹齢、木の表面、切り倒す時期、斜面の角度、切り倒す方向に至るまで、その立地環境が、ワイン樽にふさわしいかどうかを決定する。

日当たりや、水はけの良い立地で育ったフユナラは、数百年間、細く、まっすぐ、そして、ゆっくりと育っており、幹の直径が、60〜70cm程、そして、初期に人工的な枝の矯正を受けていない。伐採の正しいタイミングは、樹木の樹液の流れが、ほぼ完全に停止する冬の初めがいい。更に言えば、適した天気や日にち、占星暦、あるいは、樹木の伐採方向などが、樽のための最善の木を得るために熟慮される。

ワイン樽用には、木の下の部分の、まっ直ぐに成長したおよそ1㎥の部分が使われる。その1㎥のバリックの材料を切り出すためには、およそ5㎥のナラが必要となる。工場では、樹幹が注意深く加工され、2種類の樽へと振り分けられる。

つまり、バリックに使われるか、大樽に使われるかで、切断される長さが異なる。バリックの場合、まず1mの長さに切断される(Bloch)。その後、更にそれを16本の木片へと切り分けられる。木目の随線(成長による繊維)に沿った断面は、樽にとってとても最も重要な個性となる。導管(水分の通路)が少ない部分を切リ出すことにより、空気と液体に接する表面がより密になる。その密度は、後にワイン樽になってから、最も大切になってくる。つまり、液体(ワイン)の喪失を防ぎ、適度な酸素の浸透でもって、ワインが熟成し、洗練されていく。

その後、木片はおよそ3cmの厚さ(Dauben)に切断され、選別され、カンナにかけられる。ストュック(容量1,200l)や、ドッペルストュック(容量2,400l)と呼ばれる大樽の場合、6cm〜8cmの厚さに切られる。それらの木片は、屋外で1年間、空気乾燥される。風雨や日光にさらされることで、木片に含まれる強すぎるタンニンと、湿度が減少する。

屋外に置かれた木片の山は、チーズやハムと同様に、一つの熟成のプロセスが生じる。その間の空気の湿度と温度のバランスが、最も重要になる。分割されたばかりの木片には、35〜40%の湿度が含まれている。乾燥させた3年後には、湿度が12%ほどになる。木材はその状態で、湿気を吸うことも、出すこともなくなる。この屋外の空気乾燥によって、樽と外気との湿度のバランスが完成する。それと同時に、樽製造の際の理想的な伸縮性(たわみ)を持つ。

仮に、屋内の乾燥室(40〜60℃)で1ヶ月乾燥させた場合、屋外で乾燥させた木よりも、アロマが少なく、ワインの収斂性と苦味がより多くなる。同じく、赤外線ヒーターや、高周波で乾燥させたものも、ワイン樽には適さない。


作;Frank John 訳;Yoko Yoshimoto

※バリックワイン

ワインをバリック樽に熟成させた場合、そこでは、単なる樽の風味が付くという現象だけでなく、全く新しいものが加わる。バリックの中では、ワインと樽(ナラ材)のそれぞれが持つタンニン酸が融合することによって、ワインがまろやかになる。品質の高いワインであるほど、多くの複雑なアロマが形成される。

バリック熟成のためのワインには、例えば、ドルンフェルダー、シュペートブルグンダー、シャルドネなど、ふさわしいブドウ品種が選択される。基本的に、高いタンニン酸を含む赤ワインは、繊細な白ワインよりも、バリック熟成に適している。しかし良い生産者であれば、例えば、シャルドネなどで、力強い白ワインを造ることができる。

バリックで熟成させたワインには、ある共通の香りを見つけることが出来る。それは、樽材のトーストから由来する、コーヒーや、トースト、カラメル、チョコレートなどの焦がした風味、並びに、ナッツや香辛料のアロマ、そして、更には、バニラや、ラクリッツなどの香りを感じることができる。一本のバリックワインには、何層にも重なる、それらのアロマの構造を探索するという、それはまるで、オーケストラの各楽器の音色を選び聞くことにも似た、楽しみ方が出来る。


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