- Yoko Yoshimoto
「私とヨーロッパ」
最終更新: 2020年6月2日

・カイヤは、23歳(女性♀)。スコットランド生まれ。彼女は、インターレイルを使って、グラスゴーから、イスタンブールまで、ヨーロッパ大陸を巡る。
・カイヤは、旅の最中、電車の中で、ホテルの中で、あるいは、通過するある駅の中で、友人と、あるいは、偶然に出会った人と会話をする。彼女は、ウィーンで1人の女友達を訪ねる。2人は、川で泳ぎ、雨の中を濡れながら散歩する。ブダペストでは、1人の青年とヨーロッパについて議論する。セルビアでは、1人の若い旅行者が、EUに加盟していないことが、どんなに大変かを、彼女に語る。そして、ベルグラードで、カイヤは、その国のインフラの問題に直面する。
・今、ヨーロッパは、当然と思われている、平和と安全と権利が脅かされている。現在のそのヨーロッパの感覚や、その考え方の危機は、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に最もはっきりと表される。そして、スコットランドが、この機に乗じて、英連合王国からの離脱を目論んでいる。このドキュメンタリーフィルムの中で、1人の選ばれたスコットランド人、カイヤが、若い豊かな感情を顕にさせながらも、葛藤、熟考し、アイデンティティーと、方向性を探っていく。それと同時に、ヨーロッパの精神、その多様性、そのもろさ、その中での若者の結びつきを表現している。
監督は、二人の女性;マーヴィン・ヘッセ(32)と、リー・シーメン(33)
このフィルムは、カイヤが一人旅をしているが如く自然に仕上げることを目標とした。それにはまず、旅の荷物をかつぎならでも、いつでもフィルムを回せる準備が出来ているように努めた。これからカイヤが誰と出会うのか、それがどう写るのか、そのような偶発的な事象に出来る限り順応するために、準備をし、予測し、テストをした。つまり、このフィルムの制作には、柔軟性と耐久性が求められた。取材班たちは、その日にどこに泊まるのかさえ分からなかった。
遠くにあると思っていたものが突然近くに来て、他人が突然知り合いになる。カイヤは、4週間の旅の中で、多くの体験をし、出会い、反応する。このフィルムは、若者の行動と会話、観察を通して、アイデンティティーとは何かを問いかける。思春期の人たちの目から見た、国境のない一つのヨーロッパこそ、最も大切なEUの宝。もし、それが失われるのであれば、EUは果たしてどうなるか。そのような憂慮を持って、このフィルムは制作された。若者の旅への憧れ、出会いの期待感、自由な感覚、批判的な内省などを、視聴者に伝えたい。そして、成長と崩壊の要素を併せ持つEUの存在について、議論のきっかけを作ることが出来ればと願う。
当然、取材班は、カメラの横で、カイヤと時を過ごした。そして、カイヤとその状況を自然に表現するように努めた。私たちは、彼女と会話をしたし、場合によっては、テーマを提示したり、考えさせたりした。もちろん、それは、カイヤが自然に旅を進めていくという前提で行ったもの。また、カメラの存在は、登場人物が目立とうとしたり、何か言うことを誘導することを感じたり、あるいは、不快に感じたりすることを生じさせる。しかし、どんな小さな出会いでも、フィルムを回し続け、登場人物に敬意を払うことを忘れずに、常に自然に進行することに留意した。
○カイヤの自宅にて。
旅を前に、カイヤが今の心境を語る。
カイヤ「私は今、心の中に、ある悲しみを感じている。それは、ブレグジットが、何をもたらすのか、分からないから。だから、今回のヨーロッパの旅が、私にとって、どうなっていくのかも分からない。それは、私と同世代の多く若者も、分からない。ブレグジットを決定した大人たちよりも長く、今後のイギリスでどう生きるかを。」
○スコットランド連合王国、グラスゴー・セントラル駅
重いリュックを背負い、ホームを歩きながら、カイヤは思う。
カイヤM「私は、とても敏感な人間です。とても楽観的な時もあるし、突然、無力感に襲われる時もある。また、とても寂しくなったり、逆に喜びにひたったり、あるいは、何か欲しくてたまらなくなったりする。私は、一人の姉であり、一人の娘であり、そして、一人の友達である。私は、愛されている。私の名は、カイヤ。23歳。私は、インターレイルでヨーロッパを旅する。」
カイヤは、友人のエザ♀と列車に乗り込み、ウィーへ向かう。車窓から、二人は流れゆく景色を眺める。カイヤの顔が、窓に反射して写っている。
タイトルバック 『私とヨーロッパ』
○オーストリア、ウィーンにて
カイヤは、帽子を買い、友人のエザと店から出てくる。ウィーンの街を二人で歩く。
エザ「どう、その帽子?」
カイヤ「えぇ。」
エザ「かわいいわよ。」
カイヤ「旅人になった気分。ずっと、この帽子と一緒よ。」
エザ「そう、あなたは旅人。自由に行くの。」
カイヤ「そうね。」
エザ「ここを左に曲がろうか。」
カイヤ「うん、それがいい。向こうは、、、混んでいるわね。」
エザ「たくさんの人ね。」
川原にて。二人は、手荷物を置いて、大きな橋脚の前に立ち、座る場所を探している。雑草が膝下まで生い茂っている。
エザ「ここにする?それとも、向こうへ行く?」
カイヤ「向こうがいい。ここは皆んな、おしっこをしに来る場所だと思うわ。経験から言っているのよ。」
エザ「(失笑して、橋脚あたりを指差して)例えば、ここの辺り?」
カイヤ「そうね、この太いコンクリートの影で、この背の高い草むらに隠れて、ここならいいと思って、おしっこをしているわよ。私の言いたいこと、分かる?」
エザは、笑って聞いている。
カイヤ「(少し離れた地面を指差して)そっちは、もっといい場所かも。もしくは、ここも。(また別のところを指差して)そこは、明らかにおしっこをしそうにない場所。そう思う わ。」
エザ「(少し呆れて、笑いながら)カイヤの言う通りよ。」
カイヤ「ここに、座りましょう!ここなら、大丈夫。」
水着で川に入るカイヤ。エザは水着のまま岸辺に立っている。
エザ「私は、ここで見てるわ。」
カイヤ「(泳ぎながら、)とても気持ちいいわよ。泳ごうよ!」
エザ「え!泳ぐの?まぁ、いいか。(泳ぎ出す)そんなに冷たくないわね。」
二人は岸に上がり、水着の上に服を着て、座る場所を探す。濡れた髪のまま、500ml入りの缶ビールを飲みながら会話をする。
カイヤ「さぁ、草の上にハンカチを敷いて、大人がするように。そう、私たちは大人よ。
土が程よく柔らかいわ。」
エザ「ここの草が、ちょっと邪魔ね。ちょっと、聞いていい、カイヤ?もし、あなたが、子供を持ったとしたら、どんな名前がいい?」
カイヤ「そうね〜、まず1つめに、サスキア・プディング・バルトロマイ。それは、女の子。」
エザが、思わず吹き出す。
カイヤ「2つめは、アルマンド・フィリッペッペ・バルトロマイ。」
エザ「何なのそれ!」
カイヤ「男の子ね。」
エザが爆笑する。
カイヤ「ひょっとして、中性的な名前も必要かしら?え〜と(少し考えてから)、サム。」
エザ「サム、、、それに続く名前は?」
カイヤ「サム・バルトロマイ。」
エザ「それは、3人目の子供?3人目は、予定してなかったんじゃない?」
カイヤ「3人目、そうね。私は、そんなに子供を産むつもりはないわ。」
エザ「そうね、私も。」
カイヤ「サスキア・プディングと、アルマンド・フィリッぺぺ、それは、もう前から決めているの。でも、母親になる前に、叔母になる方が早いわよ、きっと。」
エザ「でも、名前を決めるということは、大切よ。」
カイヤ「そうね。」
電車の通る音が河原に響く
エザ「(空を見上げて)ちょっと、雨が降ってこない?」
カイヤ「だと、濡れちゃうわね。でも、はっきりしないわ。」
エザ「もし、そうなら行かなくちゃね。」
カイヤ「降ってきてる感じはする。」
エザ「降っているかどうか、立って確かめてみるわ。」
カイヤ「(エザが立ち損ねたのを見て、エザに手を差し伸べて)お手をどうぞ!」
カイヤは、座ったまま、手についた虫を吹いて払い、腕時計を見る。
降り始めた雨の中を、二人並んで、濡れながら歩いていく(後ろ姿)。
○ハンガリー、ブダペストにて
オープンカフェにて、2人のスペイン人♂、1人のドイツ人♂、1人のポーランド人♀とカイヤの計5人が、英語で話をしている。
カイヤ「Ok!では、始めましょう。あなた方は、スペイン語ね。そして、君がドイツ語。」
ポーランド人「ポーランド語を知りたい?」
カイヤ「あなたは、ポーランド人?OK!これ見て!小さなハートと、笑顔(カイヤがノートに描いて見せる)。」
ポーランド人「もしかして、『ありがとう』って言葉を知りたいの?」
カイヤ「そう、それから、『乾杯』という言葉も。」
ポーランド人「乾杯は、“Na zdrowie!“よ。言ってみて!」
カイヤ「“Na zdrowie!“ 言葉って面白いわね。」
スペイン人「僕が60日間、アメリカで働いていた時、2人のポーランド人の同僚が数週間、僕にポーランド語を教えてくれたよ。でも、汚い言葉だけだった気がするよ。」
ポーランド人「それは、あまり良くないわね。『ありがとう』は、“Dziekuje“よ。ちょっとフランス語っぽく聞こえるけどね。」
カイヤ「„Dziekuje“?」
ポーランド人「そう。」
カイヤ「私は、スコットランドを出発して、ロンドンを経由して、船でフランスに着いたの。フランスは早く抜けて、スイス、そして、2〜3日間、ウィーンに滞在したの。その後、数日、スロバキア、そして、今はここ。でも、どこも、急ぎ旅ね。私の頭の中には、常にリストが入っていて、そっちに行って、そして、また、こっちに戻ってきてって。だって、インターレイルのチケットの期限が4週間だから、出来る限り、いろいろな所へ行ってみたいのよ。忙しすぎないようにね。でも、出来るだけ多く見たい。なんとなくそう思ってしまうの。将来、私たちは、どのようにヨーロッパを生きて行けばよいか、はっきりと分からないから、、、それを考える旅よ。」
スペイン人のマウロ♂と、カイヤは、ブダペストの街を歩く。
カイヤ「(この旅は)いい、挑戦でしょ。」
マウロ「ところで君、今から、どこに行こうとしているか分かってるの?」
カイヤ「もう一度、街の中央に戻るのよ、何か食べるためにね。」
マウロ「どこに行くか、分かってないんじゃないの?」
カイヤ「分かっているわよ、完璧よ。任せておいてよ。」
マウロ「Googleを使うのって、もしかして、嫌い?」
カイヤ「Googleマップのこと。Googleマップは好きすぎるわよ。でも、今使うのは問題ね。」
ある喫茶店のテラス席で、2人が語る
マウロ「ロンドンを旅行した時、ガイドが僕に言ったんだ。多くの国民はイギリス王室を尊重していると。そして、非独裁国家の目的を達成していると。イギリスに、独裁者は存在しない。なぜなら、国王も、女王も、ロイヤルファミリーも、そして、首相だって、そう認識しているから。」
カイヤ「おそらく、そうね。」
マウロ「でも、それは、はっきりとは断定できない。例えば、1人の独裁者が、ロイヤルファミリーを壊すことだって出来るからだよ。」
カイヤ「でも現実、そう(独裁)とも言えるわよ。つまりね、私たちは国民な訳でしょう。1年間にたくさんの税金を、彼らに払っているわ。そして、彼らを見て言うのよ、『まぁ、なんて素敵なドレスなの!』って。」
マウロ「ガイドが言ったよ、彼らはある目的を持っていると。彼らは権力を持っている。でも、彼らは、それらを行使してはいないだけ。でもね、彼らは、法律の眼を掻い潜ることだって出来るかも。」
カイヤ「そうかもね。」
マウロ「もしかして、彼らはブレグジットに賛成だったかも。もしかしたら、彼らは権力を使いたかったのでは。1600年来、彼らはそれをしていなかった、と僕は思う。」
カイヤ「ちょっと、話題を変えない?他に、面白い話題は、、、あ!キックボード!2台、走っていくわ。それが、私の2つめの話題。あなたにとっては、0かもね。」
マウロ「大きい声、出さないでよ。どこ?僕には見えないよ。」
カイヤ「1台でしょ!ほら、もう1台!キックボードが2台、走っていくわ。」
マウロ「どこ?」
カイヤ「ほら、あっちよ。」
マウロ「僕には見えないよ。」
カイヤ「2台!1人は女性っぽい。道を横切っていくわ。見えないの?」
○ルーマニアのシビウ、そして、アルバ・ユリアを列車で経由して、北マケドニアに到着。
夜のスコピエの街を歩くカイヤ。途中、ある女性から声をかけられる。
女性「スコピエの第一印象は?」
カイヤ「どう表現していいか、分からないわ。でも、圧倒されたわ。並んでいる銅像も大きいし、それらの袂を歩いていると、、、とても素晴らしいわ。」
女性「スコピエの要塞は見た?」
カイヤ「いいえ。」
女性「まだ見てないの?」
カイヤ「えぇ、まだ。」
女性「そこには、行くべきよ。それから、現代芸術の博物館もね。それは、要塞の出口にあるわ。」
カイヤ「分かったわ。」
女性「とても、素晴らしいんだから。」
カイヤ「あなたは、スコピエ出身ですか?」
女性「いいえ。生まれたのは、ここから50km離れた街。でも今は、スコピエに住んでるわ。」
翌日。途中で知り合いになったセルビア人のサラ♀と、停車している電車の中にいる。
カイヤ「(イヤホンで音楽を聴きながら、独り言を言う)本当に良かった。とても魅力的だったわ。私たちは若いから、興味がわかないことなんてないわよね。ところで、今、ここは、どこ?」
サラ「電車を乗り換えないとね。」
カイヤ「(聞こえなかったのか、耳からイヤホンを外して)待って、サラ?。もう一回言って。」
サラ「セルビアに行きたいの?」
カイヤ「スボティツァという街に行きたいの。」
サラ「それなら、電車を乗り換えないと。」
カイヤ「OK、了解。ありがとう。早速、次で乗り換えましょう。後で、あなたに電話してもいい?(サラが頷くのを見て)OK?ありがとう。」
乗り換えのために、電車を降りてホームを歩く2人。
カイヤ「(サラの荷物を持ってあげようとして)手伝う?」
サラ「じゃぁ、これを持って。」
カイヤ「OK、お安い御用よ。」
サラ「ありがとう。ところで、“Exitフェスティバル”を見に行くの?」
カイヤ「え、何?」
サラ「ノヴィ・サドに行くの?」
カイヤ「いいえ、私は、スポティツァに行くだけよ。何それ?何かのフェスティバルなの?」
サラ「そう、ノヴィ・サドでやる有名なフェスティバルよ。」
カイヤ「サラは、どこに行くの?」
サラ「私は、家に帰るのよ。」
カイヤ「そう。」
乗り換えた電車の中で
サラ「身分証明証を出しておかないと。」
カイヤ「私も。」
サラ「ドイツ、スイス、オーストリア、ハンガリー、、、と、私の友達は他国にいるわ。でも、彼らと会うためには、時間を合わせるために数ヶ月ほど準備が必要なの。彼らが他国で住まなければならない唯一の理由がある。それは、お金。セルビアでは、十分に稼げないの。ちょっと悲しい。だから、出稼ぎをし続けなければならない。私の住んでいるこの村では、道は壊れてるし、家の半分は空き家よ。」
カイヤ「あなたと電車の中で、こんな話が出来て嬉しいわ。まだ、私はあなたの村に行ったことはないけれども。私は、そこに住んでいないから、実際には分からない。スコットランドはそうでないから。」
サラ「我々は、EUに加盟していないから、インフラを始めとして、全ての面で、十分なお金が足りてないの。すべてが、老朽化しているし、、、社会主義国の名残がまだあるのね。」
○セルビア、ベオグラードにて
駅に降り立ち、朽ちかけたコンクリート舗装の隙間から雑草が生茂るホームを見て、黙り込むカイヤ。その後、この町で知り合ったパウル♂と話をする。
カイヤ「知ってる?学生が、エラスムス計画を利用して、学生交流が出来るということを。ここにもそんな交流があるの?ここはEUに加盟してないでしょう?」
パウル「確かにEUには加盟していない。けれど、多くのEUプログラムがある。それに加盟している学生ならば、、、」
カイヤ「私はその3学年なの。出来るといいわね。」
パウル「そうだね。それは、素晴らしい場と言えるよ。君たちは、常に素晴らしいプログラムを持っていると思うよ。」
カイヤ「そう思うわ。」
パウルと通りを歩きながら。
カイヤ「私は、こうして街を歩いて何かを発見するということが、今までなかったの。普通の学生のような、バイトと大学と自宅といった環境でないのよ。」
パウル「なるほど。」
カイヤ「ある劇団アカデミーに通ってるの。朝の9時から夕方の6時まで、丸1日そこにいる。とても忙しいの。」
パウル「なるほど。」
カイヤ「年間9,500ユーロも掛かるのよ。私は、そのお金を借りているの。」
パウル「大変だね。」
オープン・カフェーで、パウルと一緒に話す。
カイヤ「私の家族は、とてもオルタナティヴ (従来の社会体制に異を唱えること)なの。私の両親は、昔からよくデモに参加していたわ。私が小さい頃、私たち家族は、旅芸人だった。私は、いつもその興行に同行してたの。私たちは、ドラムンベースを演奏し、手作りのコスチュームを着た。それは、ワクワクしたものよ。思い起こせば、それは純粋なパフォーマンスの一つだった。」
パウル「なるほど。」
カイヤ「でも、私は劇場が好きだった。私は、女優というものと、劇場の全てが好きだった。だから、それが私にとって、必然的に唯一の道だった。私たちの劇は、政治的なもの。その興行は、社会転換を訴える手段なの。だから、今私は、ここに旅しに来ている。答えを探すためにね。」
パウル「それが、君の中にあるのね。」
カイヤ「私は本当に必要でありたい。存在に意味を持つべきだと思うの。」
パウル「そうだね。共感できる。」
カイヤ「ともかく、それが、この旅にある。」
パウル「素晴らしいことだね。」
宿泊所の食堂にて、カイヤは、スマートフォンをタップしながら、あれこれ思う。
カイヤM「私たちは、ブレグジットについて話す。それから、若者の失業について、それから、警察の暴力、そして、食塩の消費量について、精肉業界について、映画会社について、それから、「ありがとう」と「乾杯」という言葉を、どれだけ多くの言語の中で使われているかについて。それから、ジェンダーや老人介護について、また、学問と移民について、そして、意識と不安の大きな違いについて。それらは軽いトークでするのではなくて、すべてが影響を与えるもの。そして、そのすべてが、私の周りの世界に関係する、意識の中の一片を私に残し、誰かが残りを埋めていく。私たちは、列車の中で、あるいは、ホテルで、バーで、あるいは、家までの道すがら、偶然に出会った他人。それは、つまり用心深い他人。だから、私たちは、慎重に近づく。私たちの向かいの人が何を考えているかを、私たちはまだ知らない。」
ブルガリアのソフィアで一泊し、イスタンブールへ移動。
イスタンブールへ向かう列車の窓から、迷い込んだ蝶を逃すカイヤ
○トルコのイスタンブールにて。
屋内の商店街を歩く。カイヤは、店員に声をかけられる。
店員「(カイヤの濡れた髪を見て)外は雨?」
カイヤ「はい。」
店員「本当?強く降ってる?」
カイヤ「えぇ、強く。」
イスタンブール夜。夜景を見つめて、カイヤは思う。
カイヤM「私は、学生向けのとても長い教育ローンを組んでいる。でも、私が旅で出会った他国の多くの学生と比べれば、まだ私はましな方。私は変われる。私は、いつでも議論していきたい。私と思う存分、意見を交わせる相手と、たくさん出会いたい。」
作;Marvin Hesse, Lea Semen(2019,11,4) 訳;Yoko Yoshimoto