• Yoko Yoshimoto

「ヴィンツァーのつぶやき」



「ここ数ヶ月間、私たちは何を楽しみにしていけばいいのだろうか?」

私は今、ある閉店した店の前に立っている。私のお気に入りの肉屋さんだ。開業して52年、近隣の人は常に利用してきた。ところが、最近出来たディスカウンターが、激安価格で肉を売り出した。“パーティー焼肉セット10人前が15ユーロ、驚きのプライス!”私たちは今、雇用条件や、家畜の生育環境について言いたいのではない。一人前当たり1,5ユーロの価格について、悲しみ、怒っているのだ。

分別のある小さな商店は、手作りの食品やワインを品揃えしている。そして、各家庭に配達もする。肉屋、パン屋、花屋、農家直売店から、それらと取引をする小さなレストランなどだ。もし、私たちが美味しいものを真剣に考えるのなら、「手作業」というキーワードは、欠かせない。ケーキ屋、パン屋、惣菜店、果物屋、八百屋、チーズショップ、そして、ワイン蔵。これらの全ての業界には、共通点がある。私たちの「食の豊さと品質」がそこにある。その2つが最近、私たちの購買手段の変化で、脅かされている。というのも、コロナ禍の影響で、大半の人々が、当たり前の様にスーパーマーケットに買い物に行く。かたや、小さな手作りの店や、レストラン、そして、生産者の一部は廃業する。それが答えだった。

私たち小さな商店は、社会に大きな価値を提供している。それは、我々ヴィンツァーにも当てはまる。私たちは、正確な情報を持っていて、質の良いサーヴィスを提供し、素晴らしい試飲会を行い、そして、その街に食文化を育てている。ぜひ、そのサーヴィスを利用して、地方の小さな小売店から買って頂きたい。今だからこそ、私たちは、ディスカウンターとファーストフードからは、食べ物を買いたくないのだ。



「2019年ヴィンテージ」

リースリングは、数世紀もの長い間、優良なブドウ品種として、この北国ドイツに根付いている。程よいアルコール度の乗る、この表現力豊かなリースリングのワインは、私たちのアイデンティティーの一部であり、だから、地域の文化になっている。リースリングというブドウは、気候の変化に特に敏感に反応する。とりわけ、昨今の地球温暖化の傾向では、その結果を一早く示す。専門家たちは、この気候条件の変化に対応した、他のブドウ品種を植えることを助言する。しかしながら、2019年ヴィンテージを見れば、まだリースリングの特性は失われていないようだ。

昨今、2つの条件に対応することが必要である。まず、1つめは、乾燥と高温。2019年の3月の段階では、まだ涼しく、湿度があった。ところが、夏は、記録的な高温と少雨。しかし、根の深さが20mにまで達する、古木のリースリングにとって、これは大きな問題ではない。深い地層に貯まっている水分を吸い上げるからだ。若木の場合、対処が必要である。私たちは、畑に草を生やし、土を覆い、乾燥させないように努める。この様にして、私たちは、畑の温度と湿度を安定させることができる。2つめの問題は、直射日光。人と同様に、ブドウの実にも、日焼けは禁物である。ブドウの粒の温度が上がると、品質の劣化を招く。その場合、ブドウの周りの葉を残し、日陰を作る。通常の年ならば、風通しを良くするために、葉を取り除く。適度な湿度がある場合、ブドウは、病気になりにくい。しかし、異常な高温の年には、乾燥を招く。だから、私たちは、必要以上に葉を取らない処置をする。

2019年の9月、涼しい雨が降った。気温の低下は、香りを生成する時間をブドウに与える。

私たちは、共存してこそ、強い

ブドウの花は、風によって受粉する。他の果物や野菜農家のように、私たちは虫を必要としない。同じ虫でも、害虫は困る。もし、熟したブドウに穴を開ける様な事態になったのなら、必死に私はブドウを守らなければならない。「止めよ!それが進行しない様に!」しかし、もしそれを本気で考えていたのならば、もっと危険なことになる。

ワイン畑は、多様な生き物の住処である。ある特定の種の個体群が、ふさわしい条件の元で繁殖する。それが、エコロジーな基本法則である。盛夏に、てんとう虫やクサカゲロウ、あるいは、オニグモなどが、私の畑でどう過ごそうと、気にはならない。それらは、ブドウに何もしないからだ。しかし、もし害虫の繁殖する条件が整ったならば、ブドウにとっては、とても大きな負担となる。私たちのぶどう畑には、様々な虫の群衆が訪れては離れる。しかし、邪魔者が長く居続けたことはない。エコシステムは、それを見事に調節している。もし、そこに殺虫剤などを使うものならば、ぶどう畑の個性は、あっという間に失われる。



「だから、私たちの場合、殺虫剤は使わない」

私たちは、新しいブドウ畑には、コンパニオンプランツ(ブドウと相性の良い植物を植えて、害虫対策をすること)を行う。それは、積極的な害虫駆除の方法として広がっている。しかし、その利用面積は、小さすぎると感じる。この害虫対策の必要な地域は、原則、全てのブドウ畑になくてはならない。新しいブドウ畑の場合、その畑の中の生物の種類は、とても少ない。それでは、この方法自体、機能しない。この方法は、新しいブドウ畑のすぐ横に、他の自然の植物を植えることによって、手助けをすることである。初期の段階は、とても不安定である。横で数年育った草花から、畑に常に新しい虫の種類が入ってくる。それらの虫は、ブドウ畑の中で、自分に合った住処を見つける。そして、その大半は、害虫の敵となる。

しかし、反面、悪い部分も。もし、私たちのブドウのある部分が、害虫に犯されたのなら、収穫量が減り、その分、ワインの価格も上がる。私たちが取り組む、畑の環境に優しい農法は、非効率でもある。しかし、それは、私たち全てにとって、大切なことであると、私は思う。



「スクリューキャップのワインは、コルクよりうまく熟す」

最高の原料を使った、手作りの食品は、熟成によって更にうまみを増す。例えば、ワインや、蒸留酒、チーズ、ハムなどがそうだ。一方、工業的に作られた食品は、その様な特性はまず持たない。それらは、熟成することはなく、時間と共に腐っていく。私たちの蔵において、リースリングというブドウのワインは、明らかに長熟である。手摘みによる収穫と、頑固で伝統的な製法は、芸術品にも似た産品となる。それは、瓶詰め後も、ゆっくりと時間をかけて熟成する。当蔵では、数年前に、最新のスクリューキャップでワインに栓をすることに決めた。しかし、高価なワインをうまく熟成させるための栓は、コルク以外にはないのだと、未だもって推論で主張するワイン愛好家が少なくない。コルクは、年々レアで、生産が不安定な天然原料になりつつある。最新の注意を払ってコルク栓をしても、毎年、ワインに不良品が出る。しかし、古典的なコルク信者たちは、その不良に気づかないものである。コルク不良は、酸素を瓶内に通してしまう。それは、常に酸化を導き、最終的にはワインの劣化を招く。しかし、最新のスクリューキャップは、瓶内への酸素の侵入を防ぎ、健全な熟成が確かめられている。それでも、スクリューキャップは、気軽に飲める若飲みのワインだけに使い、コルクを使うワインは、高品質のワインであるという、間違った推論を唱える人がいる。この誤解を解消するのは、ワイン愛好家の捉え方次第である。でも私は確信している。実際に今、スクリューキャップは、市場で支持されているからである。特に、ワインバーや、ソムリエから。第一に、スクリューキャップでも、ワインはとても良い状態で熟成するということ。第二に、どのボトルも、同じ状態であること。よって、どのボトルを選んでも、安心してワインを楽しむことが出来る。そして、この認識は、時間と共に浸透していくであろう。


作;Martin Tesch(2020) 訳;Yoko Yoshimoto

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