• Yoko Yoshimoto

「ビュルクリン・ヴォルフ家と礼拝」



教会でのワインの役割は、長いこと、単なる飾りでしかなかった。しかし、ヴュルクリン・ヴォルフ家のリースリングの古酒を開けることは、礼拝をするに等しい。それが、キルヒェンストゥックの畑のワインならば、殊更に。

一度、ドイツのワイン街道のフォルスト村にある、その畑「キルヒェンストゥック」を訪れるが良い。そこは、世界のリースリングファンにとって、敬虔な場所である。

ヴュルクリン・ヴォルフ家は、とても重要な畑を所有している。フォルスト村の教区教会の裏の、緩やかな傾斜地。数件の家々と、それを囲む壁は、全て砂岩から出来ている。それが、昼間の太陽光の暖気を蓄え、夜には、その暖気を放出する。それが風に乗り、その畑の、寒気と湿度を遠ざける。畑の土は、砂混じりの粘土。それに少しだけ、彩色砂岩、石灰岩、そして、玄武岩。

この蔵のファン達は、この畑、キルヒェンストゥックのことを、「ドイツのモンラッシェ」と呼ぶ。既に、ご存知であろうが、モンラッシェは、ブルゴーニュ地方の高貴な白ワインの特級畑。作家のアレクサンドル・デュマは、モンラッシェについて、かつてこう語った、「そのワインは、ひざまずき、脱帽して飲むべし」と。

キルヒェンストゥックの畑は、段違いの果実味と、非常に長い熟成能力を持つ、エレガントなリースリングを育てる。言うまでもなく、ドイツの最高のリースリングワインに数えられる。無論、それについては、賛否両論はある。私も、本当に全てを飲んで確かめるまでは、公言しないでいた。

ビュルクリン・ヴォルフ家の歴史は、17世紀始めに遡る。が、新たなる歴史は、1990年代になってやっと始まる。それは、この蔵の娘、ベッティーナ・ビュルクリンヴォルフ・フォン・グラーツェ女史が、この蔵を継いだ時。彼女は、1990年、ガイゼンハイム大学卒業後すぐに、母親の後を継ぎ、この蔵を現代風に改変する。

ビュルクリン・フォン・グラーツェ女史(フォン・グラーツェは、先夫の名)は、リースリングの辛口のイメージを、そのブランドに徹底して植え付けた。そして、ヴィオディナミック農法を実施。すべてのワインが、ヴィーガン仕様で造られ、彼女の高貴な畑は、馬で耕される。

経営担当のステファン・ブラナー氏は、「品質は、ブドウ畑に由来する」と、あっさりと言う。それは、きれいごとに聞こえる。でも、確かな事実である。

畑に、無機肥料を撒くのをやめた。それによって、ブドウは、地下へ根を深く張らざるを得ない。徹底した剪定による収穫制限、最古で60年経つ古い木樽での発酵・熟成、その他、数々の自然な手法。

そのことは、疑いもなく、ワインの熟成のポテンシャルを高める。それ以外の方法はない。

ブルゴーニュ地方の格付けを真似て、瓶の表側には、「“PC”­=プルミエクリュ、“GC”=グランクリュ」と、畑の名前が刻まれる。そして、ブドウ品種は、裏ラベルに、「リースリング」と。中身が赤ワインであれば、別だけれど。

強いブランド意識を打ち出したことは、明らかである。しかし、ビュルクリン・ヴォルフ家は、単なるトレンドとして扱われたくない。

ブラナー氏曰く、「私達は、表向きだけを楽しむワインではなく、数十年先の味を考えている」と。

ワイン業界が、特に驚かされたことは、2012年のこの蔵の人員配置だった。27歳の若者が、ビュルクリンヴォルフ家の醸造最高責任者に任命された。

その若者の名は、ニコラス・リベリ。イタリア出身。彼の家族は、パスタ工場を営んでいる。その息子であるニコラスは、農業をしたくて、イタリアのピアチェンツァと、ドイツのガイゼンハイム大学でワインの醸造を学んだ。パスタからワイン生産への転身である。

当初、リベリは、研修生としてビュルクリン・ヴォルフ家に入った。その後、正式に雇われたが、最高醸造責任者だったフリッツ・クノア氏の突然の死によって、その地位に着くこととなる。

皆、女史の勇気に敬意を表せよ!そして、リベリに!と言うのも、彼は、当時からもう特別才能があったから。

リベリは、明らかに幸運を掴んだ。そして、我々は確信をする。彼はこの蔵の最高クラスのワイン、「ヴァッヘンハイマー・ゲリュンペル・リースリング・プルミエ・クリュ」を飲んだ時に。


柔らかな口当たり。すぐに若い桃のニュアンス。それと、熟れたシトラスの香り。それも、紅茶の上から搾った時の様な。次に、ライチ、そして、ハーブと花、いくらか、カモミール。そのうちに、ミネラルが、前面に押し寄せる。そのミネラルは、ゲリュンペルのワインの柱と力となっている。その強さは、抜栓後1時間後に、ようやく和らいでくる。次に、リースリングの存在が現れる。リースリングの持つべき、力強さと酸、そして、優雅さ。飲み込んだ後も、それは、舌の上に長く残る。


作;Captain Cork(2018,2,3) 訳; Yoko Yoshimoto



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