• Yoko Yoshimoto

「コンクリートエッグとアンフォラ」


「性格の反対者どうしが互いに引き合う」、そのような関係で育った赤ん坊は、より美しく育つ。これは、ワインのことを言っている。今回は、コンクリート・エッグ(卵型をしたコンクリート製タンク)やアンフォラ(粘土の素焼きの甕)で育まれたワインのお話。


ブルゴーニュ地方のドメーヌ・デュジャックの蔵の中は、瞑想的とも言えるほど落ち着いている。その一族は、ヴィオディナミ農法でワインを手掛けた先駆者の一人だ。ブドウの樹とブドウの実が、自ずとその地域と気候を、そして、それに携わる人間の特質までも、ワインに反映させる。それらが、自然のサイクルの中で、時間と忍耐と知識でもって完成されていく。それが、ワインを愛するビオ王家の目的の一つである。


2007年の11月のある日、デュジャック城に、コンクリートエッグが来た。それは、まるでロケットの様な形のものだった。どのように、その卵型のタンクを傷つけぬように、急ピッチでケラーに運んだら良いか、蔵人たちが、慣れない設置作業に奔走する。高さ2m、重さ100kg以上の、ちょっと怪しげな、コンクリートで出来た卵。この11月のある日に、たまたま居合わせた一人の旅人が、マルクス・アルテンブルガー氏だった。彼は、オーストリア、ブルゲンラント州のヴィンツァーである。


やってみよう


さまざまな蔵元のコンクリートエッグで、熟成されたワインを試した後に、彼は「やってみよう」と思った。マルクス・アルテンブルガー氏は、白ブドウ品種ノイブルガーを、コンクリートエッグで発酵後、7ヶ月間寝かせた。そして、ゼクト用と通常のワイン用とに分けた。それは、「ノイブルガー、コンクリート熟成」と、ラベルに表記された。


コンクリートエッグの流れが、フランスから、南アメリカを経由して、オーストリアに到達したことが大々的に宣伝されても、さほど驚くことではない。コンクリートタンクは、オーストリアでも、樽を作るよりかは簡単で、昔からワインを仕込むために使われていたからだ。今や、ステンレスタンクは、むしろ古いと言える。


ボルドー地方と、イタリアの一部で、今日まで複数の蔵が、この伝統を守っていることは、一部の人々に知られている。例えば、ボルドー地方の有名な蔵元、シャトー・シュヴァルブラン、もしくは、シャトー・ペトリュスは、昔から、コンクリートタンクで発酵させている。当然、今では、昔ながらのお手製のものではなく、ハイテクのコンクリートタンクではあるけれども。


ワインをコンクリートに入れると、確かに最初の反応は、互いに反発する。しかし、最終的に、ワインに丸みを与える。少なくともボルドー地方のヴィンツァーの見解はそうである。数百ユーロ以上の値の付く、シャトー・シュヴァルブランやシャトー・ペトリュスなどの有名なワインの存在が、その見解の根拠となる。オーストリアのヴィンツァー達もまた、彼らの実際の経験によって、それを確信する。


コンクリートの現在


今日、コンクリートタンクにワインを入れるヴィンツァーは、ワインにとって好ましいから、または、ワインの生い立ちを素直に表現してくれるからの理由で、それを行う。そして、ワインを、次に来るトレンドであるアンフォラに入れる理由もまた同じである。でも、アンフォラは、決して新しいものではない。つまり、既に数千年前より、ワインの生まれ故郷であるジョージアで、ワインはアンフォラで仕込まれていた。


コンクリートやアンフォラで仕込むヴィンツァーは、それに価値を付けて、ワインリストの上部にランク付けする。量を造るという点だけに目を向ければ、アンフォラは、ステンレスタンクと対極である。コストが掛かるという点を除けば、コンクリートタンクやアンフォラを使うことによって、ヴィンツァーの毎日の仕事の中に、ある意味が生まれる。


ヴィンツァーにとって大切なことは、ワインの世界、とりわけ、自分たちの造るワインの特徴を豊かにすることである。ワインは、もっと豊かに表現されるべきである。そこの重要なポイントは、空気にある。ワインの呼吸と熟成のためには、空気が必要である。ステンレスタンクが、気密性に優れていることに対し、アンフォラとコンクリートエッグは、より空気を通す。木樽よりも、通気が多いか、少ないかは、それぞれの木樽、アンフォラ、コンクリートタンクによる。


ワインの中の足跡


それぞれに違いがあることは、確かである。木樽の場合、その木の樹齢、もしくは、どのくらい内側を焦がしたかによって、ワインの味の中にその足跡を残す。同じく、コンクリートも陶器(アンフォラ)も、ワインに足跡を残す。ただそれは、木樽よりも繊細で、より少ない、分からないレベルである。


一つのパターンで言えば、コンクリート・エッグは、アンフォラよりもワインに丸みを与える。例えば、マルクス・アルテンブルガー氏は、コンクリート・エッグで醸したゼクトと、アンフォラで醸したゼクトを比べた時に、そう確信した。


アルテンブルガーのゼクトは、シャンパン同様に瓶内二次発酵で造られ、生き生きとした泡立ちで、口に入れて滑らかである。それは、おそらく酵母と共に熟成させたことによって得られたものだろう。では、果たしてそれが、コンクリート・エッグの影響もあるのだろうか?

それは、有り得る。繊細で、けれども、長く続く泡は、その効果と言える。アンフォラで醸したゼクトも然り。じっくりと時間をかけて試飲をすれば、そのワインのしなやかさを認識することができる。


「派手さは、全くありません。ノイブルガー、そのニュートラルな性格なブドウ品種には、飾り気がありません。しかし、コンクリートは、それに繊細で柑橘系の香りを持ったハーヴのニュアンスを発展させます。それは、ワインの中にはっきりと現れていますし、印象を残します。派手さはありません、けれど、記憶に残ります。」


オレンジワインにハマる


たとえオレンジワインの概念が、確固たる定義がされていないにしても、「コンクリート」、「アンフォラ」、そして、「自然派ワイン」に興味を持つ者は、知らずうちに「オレンジワイン」という言葉を語らずにいられない。それは、特別な仕込み方法で作られた自然派ワインのことである。


オレンジワインは、醸し発酵させた白ワイン(赤ワインの様に仕込んだもの)である。必ずではないが、よくアンフォラで発酵させる。また逆に、アンフォラで仕込まれたワインが全て、オレンジワインではない。例えば、クラウス・プライジンガー氏のヴァイスブルグンダーは、アンファラで仕込まれるが、オレンジワインではない。


プライジンガー氏曰く、「私にとって、アンフォラで仕立てたワインは、より誠実で信頼できる。私は、ワインの素性を表現したい。」アンフォラは、それを表現できる。焼かれた温度が高ければ高いほど、陶器の穴は小さくなる。そして、より空気の流入が少なくなる。でも、ステンレスタンクよりは、はるかに空気を通す。ステンレスタンクよりも、アンフォラの方が自分の仕事に合っていると、彼は感じている。その触覚、形、そして、仕上がるワインまでが好きである。


彼の造るヴァイスブルグンダーとブラウフレンキッシュは、ピュアでエレガント。どちらも、その生まれた素性が、はっきりと表現されている。ヴァイスブルグンダーは、スモークとハーヴの香り。ブラウフレンキッシュは、黒いフルーツ、ラクリッツ、そして、生き生きとしたハーヴのアロマを感じる。


心を込めて造られたワインと、さほど特徴を持たないが完璧に造られたワインとの違いを、人は利き分けることは出来ない。アンフォラに入れても、コンクリートに入れても、同じことが言える。つまり、アンフォラとコンクリートが、ワインにどう影響するかを、正しく確かめることは出来ない。しかし、それらはワインの中に、ある一面を与える。それを、ますます追求したくなる。


ゲルノート&ハイケ・ハインリッヒ夫妻も、アンフォラに魅せられたヴィンツァーである。2017年には、たった2個だったアンフォラが、今は、140個にもなった。「うちの夫は、小さく出来ないんです」と、ハイケ夫人は笑う。ゲルノート氏は、アンフォラが、ワインの品質と信頼性を保証することを、毎年証明している。


100haの畑をヴィオディナミ農法に切り替えて、その効果やワインを検証し、そして、ワインが完成し、根本的に変わることは、彼にとって、とても大変であったが、重要なことでもあった。「私は、楽しく仕事をしています。アンフォラは、私たちの型やワインを完成させました。」と、ゲルノート氏は言う。しかし、先に挙げたワイン生産者を含めて、彼が木樽の使用を全くやめたという意味ではない。


アンフォラは、ワインの持つ多彩な特徴の中で、ある一つの側面ではあるが、より複雑性を与える。例えば、木樽とアンフォラのワインとを比較すると、とても面白い。今回、「エーデルグラーベン」という同じ畑からの、クラウス・プライジンガーのワインを比べてみた。


どちらのワインも同じ2018年に搾られている。樽で熟成したか、アンフォラで熟成したかの違いのみ。両者とも、多彩な味わいを持つ素晴らしいワイン。当然、2つのワインとも、今試すには若すぎる。まだ練れていない。樽熟成のワインは、アンフォラ熟成のワインよりも、力強く、動物の皮の様な香りと、黒い果実のニュアンスを持つ。一方、アンフォラの方は、酒質に引き締まった感じがあり、後口に、果実味が強調され、塩気を感じる。両者とも、畑の特徴を反映しており、健全な美味しさがある。


ある島のワイン


次に、マヨルカ島のアンフォラ熟成のワインを見てみよう。蔵元クアトロ・キュロスの造るワイン「モーター・カリェット」は、蓋をしないアンフォラで醸される。つまり、マイシェ(醪)に直接、酸素が接触することになる。それは、繊細な果実味、きめ細かな酸、軽い口当たりのワインだった。


このワイン、「モーター・カリェット」は、あるグループに影響を与えた。それは、コンクリートタンクとアンフォラのワインを比較して、新しいワインを発見するヴィンツァーのグループだ。そのグループに所属するエミーリオ・ファラドーリ氏は、およそ90個のスペイン製ティナハを、自身の家に置いていた。ティナハとは、スペインのアンフォラの種類だ。


エミーリオ家は、イタリアのトレンティーノ州のメッツォロンバルドにある。彼は、父親のエリザベッタ・ファラドーリの後を継いだ。アンフォラで熟成させたワインに、木樽に入れたワインをブレンドすることはあるにしても、この数年来、ティナハがワイン造りの優勢を占める。「アンフォラの成果は、ワインによく出ています。」と、全てのヴィンツァーと意見は一致している。


アンフォラ、もしくは、コンクリートタンクを使っての仕込みを減らすことは、彼にとって考えられない。それは、一つの重要な構成要素だからだ。その一つのアクセントが大切だと言う。エミーリオ・ファラドーリ氏のワイン「テロルデゴ・モレイ」は、生き生きとした果実味、きりりと引き締まった酒質、迫力あるアタックを持つ。言葉では、そのワインの味は表現できない。偉大なワインとは、そのようなものだ。


時が変われば、品変わる


フランツ・ヴェーニンガー氏は、オーストリア・ブルゲンランド州のホリットショーンにある蔵元。彼は、コンクリートタンクを再び購入した。「私が子供の時、ここに一つの大きなコンクリートの醸造タンクがありました。」と、彼は言う。そして、今ある大きな木樽を指して、「私の父が、私の祖父の使っていた木樽をやめたのです」と。数ヶ月前に、3つのコンクリートタンクがイタリアから、彼の蔵元に到着した。まだそれらは、蔵の建物の前にある。エンジニアは、その大きなコンクリートタンクを、ケラーのどこに設置するかに、頭を悩ませている。


遅かれ早かれ、ヴェーニンガー醸造所には、後3つの立方体型のコンクリートエッグと、いくつかのアンフォラが加わる。コンクリートエッグには、ツヴァイゲルトが醸される。その日のテイスティングでは、ハンガリーのエリアの畑から造られたブラウフレンキッシュが出された。それは、コンクリートタンクで醸されて、最後に樽で寝かされたもの。


たった今目覚めた奴は、複雑な性格で、でも、親しみやすい奴と仲間から言われる。何のことかと言うと、アンフォラで醸された一本のワイン、「グリューナー・フェルトリーナー・カフカ2014」のことだ。まさしく、瓶に詰められたマラソン選手とでも言おうか、スタミナがあり、まだまだフレッシュである。このワインは、さまざまな顔を持つ。火山岩から由来する塩気、そして、飛び跳ねてくるようなハーブの青さやスパイスが、舌の上を踊る。ラベルには、「生きよ、キスに飽きるまで、そして、飲み飽きるまで」と書かれている。


ゴットホルト・エフライム・レッシングのこの諺を、ヴェーニンガー氏は拝借した。しかし、人は、なかなかその境地まで達しないものだ。ましてや、ヴィンツァーが、その魔法の器でワインを醸し続けたのなら、永久に飲み飽きすることはないであろう。


作;Nina Wessely, RONDO (2019,6,8) 訳;Yoko Yoshimoto